にっき。


どうも。
ついこの前、春が来たかと思ってたら、もう雨の季節真っ只中ですね。
桜前線が北へとふんわり走り抜け、気付けば、それを追うように新緑の芽吹きが駆け抜ける。
そして今はその緑に空からたくさんのしずくがパツパツと降り落ちてる。

僕が今のアパートに越してきてからもう1年が経とうとしてる。
1年?
あれから、あれから1年経つのか。そうか・・・。

そういえばそうだ。
夏だった覚えが、わずかにある。
前の部屋から急に引っ越すことになった僕は、
部屋も見ずに決め、トラックを借りて荷物を運んできたんだ。








2階建てのアパートの1階。
少し古くて、少しせまい部屋。
その古さが僕は好きだったし、その狭さも僕にはちょうどよかった。
床の木は濃い茶色で落ち着くし、とても静かで、考え事や本を読むにはもってこいだ。
何よりも、窓の外にはたくさんの大きな葉っぱをつけた木が1本立っていて、これがとても嬉しかった。

あ、それともうひとつ。
前の家で黒と虎の2匹のネコを放し飼いにしている。
クロは首に小さな鈴をつけていて、彼は僕の部屋の前をよく通る。
僕はその鈴の音が聞こえると窓へ駆け寄り、彼を見る。
前の家の芝生の庭で虫に気をとられて遊んでいたりする彼を見るのがとても好きだった。

ただ、彼が僕に気付き、僕が満面の笑みを返しても、彼は警戒するばかりだった。
しばらくお互い目をそらさずに沈黙の時間が過ぎ、僕が手を振る。
すると彼はふいっと向こうへ歩いていく。
・・・うーん。

要するに、僕はこの部屋が気に入った。



ひとつだけ難点を挙げるとするなら、虫が多いことだ。
少し大きな蜘蛛がすごくたくさんいる。
最初は部屋の中の同じ場所にいっつも立派な巣を造ってるやつがいた。
僕はその巣を取り払う、次の日にはまたできてる。これを繰り返した。
しばらくするとそいつは諦めたみたいだ。

今は部屋の中ではたまに見るぐらいだ。外には相変わらずうようよいるけど。

それと、越してきて1週間ぐらいだろうか。
風呂に入って、体を洗うタオルを手に取った時に、「ぽとっ」と何か足元に落ちた。
眼鏡を外していたので、少し顔を近づけて足元のそれを見た。
それを見た瞬間、僕はつま先立ちになり、後ずさっていた。
何か今までに見たことのない生き物が床をくねくねと這っていた。
僕の手の薬指ほどの大きさだろうか。
たくさんの足があり、細い体をしている。
ムカデにアメンボの足をつけたようなものだ。
僕の地元の方で、「げじげじ」と呼ばれるやつがいるが、その類かもしれない。

これがとにかく、気持ち悪い、のだ・・・!
夢で見てしまうほどおぞましいものだった。
ゴキブリと同等、もしくはそれ以上かもしれない・・。ぞっとするのだ。
僕の体は拒否反応を示し、それ以降しばらく風呂に入るときはびくびくしていた。

しかし、結局そいつが出たのはそれっきりだった。





そんなこの部屋にすっかり慣れた頃、気付いたらもう長い冬だった。
大好きな部屋の前の木は茶色になった葉を全て落とし、まるで枯れ木のようだ。
早くまた夏になって、活き活きとした緑で窓がいっぱいになるのが恋しかった。

部屋には慣れていたけれど、僕と黒猫のやりとりは相変わらずだった。

そんなある日、前の家のおばさんの庭に向けて猫を呼ぶ声がした。
2階のベランダで休んでいた猫がさっと体を起こし、軽やかに下へ降り、家の中へ入っていった。
「ジジ」 どうやらそれが彼の名前らしい。
宮崎駿の「魔女の宅急便」にでてくる黒猫のそれだ。
きっとそこからもらった名だろう。

彼は1日のうち、朝のしばらくの時間を家の中で過ごしているようだ。
朝のまだ早い時間、人が起きるまではもう少しの時間がある。
その時間帯になると家の前に戻ってきて、庭で遊んだり、塀の上で休んだりする。
しばらくするとおばさんが起きてきて窓を開け、家の中へ入っていく。
そんな様子だ。

それ以外の時間はどこかをうろうろして過ごしているようだった。
僕は黒猫のその生活に憧れないでもなかった。

なんにしても、相変わらず、彼の首もとの鈴の音が好きだし、
彼がその家に戻ってきて庭で遊んでいるのを見るのが好きだった。







そして長いはずの冬はあっという間に過ぎ、春が来る。
その冬をこのアパートで過ごしたことは確かだったが、不思議と、僕にはその覚えがあまりない。
なぜだかわからないのだが、今から半年足らず前のその冬のことがほとんど思い出せない。
そんなことはさておき、やっぱり僕は窓の外の木が緑でいっぱいになるその姿を早く見たかった。
新緑の季節がまたやってきて、そこら中の緑が芽吹く。
気が付いたら、1年が経とうとしている。
窓いっぱいの緑。
風が吹き、ざわざわと大きな葉のすれる音を聞きながら、窓の外をぼんやり見ていた。
やっぱり僕はこの景色が大好きだった。

するとその時、あの鈴の音がする。
その木の下の塀をジジが歩いていた。
と、その後に続いて、もう1匹ジジによく似た黒猫が歩いている。
・・・あれ?2匹いる・・・。
よく見るともう1匹のネコはジジと比べるといくらか丸く、太っている。
というか、比べては見たものの、今まで1年程の間僕が見ていたジジがどちらだったのかがわからない。
おそらくスマートな方だとは思うが、はっきりとは自信がない。
なんだか嬉しいようなよくわからない気持ちの後、少しおかしくなり笑ってしまった。

相変わらず、朝になるとジジが前の家のベランダでおばさんが起きてくるのを待っている。
窓を見上げるようにその前に座り、にゃー、とおばさんを呼んでいる。
やっぱり僕は、それを見ているのが好きだった。





もうすぐ1年が経とうとしている。
ほんとうにあまり覚えが無いのだけど、それは間違いないらしい。
僕は漠然と、このアパートを出ようかと考えていた。




梅雨。青空を何日か見ていない。
ぼくは部屋の中で過ごしている。
と、パソコンの後ろを何かが動いている。
よくみると、あの時目にした「げじげじ」のようなヤツが這っていた。
「うわっ」
僕の体中の毛が逆立ち、一瞬固まってしまった。
ふと目を離した隙にどこかへ消えていた。
夏によく出るのだろうか。
この部屋にたくさん住んでいると考えるとぞっとする。
僕はその生き物を愛そうとしてはみたが、難しすぎた。


ある朝、前の庭が少し騒がしかった。
見ると、頭に白いタオルを巻いたおじさんたちがなにやら仕事をしている。
庭の手入れをしているようだ。
僕は本を少し読んだ後にもう1度窓の外を見た。
すると、そのおじさんが、僕の大好きな木の枝を手際よく切り落としているではないか・・・!
しばらく後には葉を少しだけ残し、あとはきれいさっぱり切り落とされた木があった。
仕事を終え、さっとおじさんたちが引き上げていった後も僕はぼーっと外を見ていた。
窓からの景色は、この季節を待っていた僕にとって、とても寂しいものだった。





枝がばっさりと落とされ、広くなった空をぼーっと見る。
その下の芝生ではジジが虫を夢中で追いかけている。

「そろそろ、行くよ。」

彼に聞こえてはいないだろうけど、僕はそう呟いた。
by room0126 | 2007-07-21 19:36 | Writing
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